現場から

今年の「お能ワークショップ」はハイブリッドで~「こんな時だからこそ留学生に能を味わってほしい!」と、能楽師~

昨年2月の能ワークショップは、慎重に話し合いを重ね、実施が決まりました。当日講師を務めてくださった武田文志さんは、コロナ禍での実施ということで、留学生への語りかけもいろいろ工夫をし、彼らの思いに寄り添ってくださっているのが感じられる素晴らしいお話でした。

オンラインの学生にずっとパソコンで様子を見せている先生

2021年実施のワークショップに関しては、以下の記事をご覧ください。

能ワークショップに大喜びの留学生!~地域社会に根付くイーストウエスト日本語学校~

       http://www.acras.jp/?p=10891

今年もとても充実した能ワークショップとなりましたが、今回は、ワークショップの内容紹介ではなく、オンライン参加の留学生への配慮、能楽師・武田文志(ふみゆき)さんから頂いた珠玉の言葉をお伝えしたいと思います。

■ハイブリッドで、未入国の留学生にも楽しんでもらいたい!

今年は、コロナ禍2回目の能ワークショップとあり、昨年と比べて大きな変化がありました。それは、2020年4月以降、2020年11月頃一度入国できる時期がありましたが、あとは全く入国できない状態が続いているため、いまだに母国でオンラインで授業を受けている学生がいるのです。

そこで今年は、修能館に出かけていって受ける能ワークショップと、ZOOMで参加する人達というハイブリット開催と相成りました。未入国の状態でひたすら来日を待っている留学生たちに、日本の伝統文化である能を楽しんでほしいと、先生方もアレコレ配慮をしながら当日を迎えました。

「武田修能館」に着きました!

パソコンやビデオカメラ、コードなどアレコレ修能館に持ち込ませていただき、いろいろ工夫をしての実施でした。チャットに質問が書き込まれるなど、とても楽しそうに参加しているのが印象的でした。実は、オンライン授業の学生さんのために、イーストウエストのロビーに対面の学生さん達が集合している間に、「お能ワークショップ」のZOOMを立ち上げました。それは、学校を出て修能館までの道のりを、「みんなと一緒に向かっている」という状況にしたいと考えてのことでした。

担当の先生はパソコンを持って、「皆さん、これから出発しますよ。みんな並んで修能館に向かっています」と説明をしながら、歩いていきました。クラスメイトや先生方の姿、中野の町の様子等々、できるだけ「今、ここ」に浸れるようにと考えた末に編み出した方法でした。修能館に着くと、今度は「皆さん、ここが武田修能館です。これからみんなで中に入ります」と伝え、パソコンとともに修能館の中に入っていきました。

■世阿弥が伝える「初心忘るべからず」とは……

修能館の前で

昨年も「『風姿花伝』は、人間が生きていく上で、大切なことがたくさん記されているので、ぜひ読んでみてください」と、紹介がありましたが、今年はさらに詳しく説明がありました。

まず「初心忘るべからず」ですが、これは世阿弥が言い出した言葉ですが、今使われている「最初に始めた時の気持ちを忘れないで、そこに立ち戻る」とは違う意味で世阿弥は言っていたのだそうです。武田文志さんは、次のように話してくださいました。

  最初は何もできない状態ですよね。その時の謙虚な気持ちを忘れないことが大切です。

  人生には、いろいろな段階があります。それぞれの段階において、未熟であって、その一つ一つを忘れないことです。

「華がある」についても、こんな説明がありました。

  「華のある役者」という言葉がありますね。実は、プレーヤー側だけではなく、それを見ている皆さん自身が「感じる心」、それが華なんです。魅了される心……とでも言いましょうか。そして、成長するには「心のはな」が必要なんですね。

3歳から舞台に立った文志さんは、今年で能を始めて40年になります。そして、8年前には大きな病気もなさいました。良い治療薬のお陰で、お元気になられましたが、能をやっていたからこそ前向きに生きてこられたと、はっきり伝えてくださいました。

 私の座右の銘は「浮世と見るも、山と見るも。ただその人の心にあり」です。何事も思い方次第、自分の心が決めるということです。そして「能は何のためにあるのか」と考え、「能を通してみんなが幸せになること」を目指しているのだと、思います。

  今、お能を知りたいなら、動画も説明サイトもいろいろあります。でも、インターネットではなく、私が能楽について話をし、実演することで、何か、皆さんの人生のプラスにしてもらえれば、嬉しいです。

■留学生からの質問に答えて

質問タイムには、留学生からいくつか質問が出てきました。オンラインで台湾から参加した留学生の質問に対して、武田文志さんは、次のように答えてくださいました。

留学生:舞台の奥に松が大きく描かれていますけど、どうして松なのですか。

文志氏:松は常緑樹で枯れません。長寿、ものごとが永遠に続くということを意味します。そして、能が始まった頃、奈良の春日大社では屋外でやっていました。そこにあった松に向かってやっていました。それは、松には神様が宿るということで……。だから松に向かって舞うのですが、お客さんに後ろは向けないので、「向こうにある松がここに写っている、「鏡松」ということで、舞台の奥には松があるんです。

武田修能館

こんなリアルなやり取りができるのが、インターネットで動画を見るのではなく、オンラインであっても、生のお能が見られること、能楽師から直接話を聞くことができる醍醐味だと言えます。

90分の能ワークショップでは、能の魅力をしっかり伝えてくださいました。特に「そぎ落としの芸能」としての能についてのお話は、一般の日本人にもぜひ知ってほしいと思わずにはいられません。

能は、本当は必要だと思われる要素まで削って、削って作り上げています。だから、見る人一人ひとりの想像力が大切であり、同じものを見ても全員が違う思いを持ちます。それは、見る人だけではなく、役者同士でも同じです。想像は、人生経験、今の感情、精神状態などで違ってきます。それが面白いんですね。

でも、「正解を探したくなる」のが日本人、だから今の日本人には能があまり好まれなくなってしまっているのかもしれません。皆さんはこの「想像する力」を大切にしてください。

5人のテクニカルチー
みんなで「高砂」の練習

お二人でワークショップをしてくださっています。

では、最後に、参加した学生さん達の感想文をいくつか紹介したいと思います。

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