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留学生による介護短歌のご紹介~『人とつながる 介護の日本語』に掲載された短歌より~

『人とつながる 介護の日本語』という介護現場におけるコミュニケーション力の向上をめざした教材が出ました。その最後のページに「留学生による介護短歌」があります。これは、筆者がNHKの介護百人一首を見て、「この本にも、ぜひ留学生の介護俳句を載せたい!」と思ったことがきっかけでした。

「介護の現場を知っている人」「短歌が作れる人」となると限られてきます。そこで、四国大学の元木佳江さんに相談したところ、快諾してくださいました。そして、とても短い期間ですばらしい介護短歌が送られてきました。ここでは、教科書に掲載された6首をご紹介します。(『人とつながる 介護の日本語』p.159)

6月に四国大学で初めての「留学生介護短歌コンテスト」があり、翌月には学長による表彰式も行われたのです。これは、機関を越え、専門を越え、教師がつながり、対話を通して突然生まれました。そして、この試みは、今後も継続して実施されることになりました。作品の紹介を含め、そのプロセスをご紹介したいと思います。

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■四国大学で突然始まった「外国人留学生介護短歌コンテスト」

まず、大学のサイトにある「ニュース&トピック」を見てみましょう。

       <「四国大学外国人留学生介護短歌コンテスト2022」開催しました>

         https://www.shikoku-u.ac.jp/news/topics/20220720.html

令和4年度前期に行っている、留学生を対象とした授業「介護の日本語」で、『四国大学外国人留学生介護短歌コンテスト 2022』を開催し、留学生が介護をテーマとした短歌づくりに取り組みました。卒業生にも声をかけたところ、在校生4名、卒業生2名から計14首の介護短歌が集まり、その中から金賞、銀賞各1作品、銅賞2作品が選出されました。

今回寄せられた短歌からは、留学生・卒業生それぞれの背景が窺え、どれも素晴らしいものでした。今後は、毎年6月を「介護短歌月間」とし、『四国大学外国人留学生介護短歌コンテスト』に向けて外国人留学生(外国人卒業生も含む)から短歌を募集し、7月に入賞作品を表彰するという取り組みを続けていきます。

     四国大学外国人留学生介護短歌コンテスト2022」入賞者

         ※令和4年7月25日(月)に表彰式が行われます。

   金賞:利用者の 笑顔を見ると 癒される 仕事の疲れ 意欲に変わる

         レー トゥイ リン さん(令和3年度卒業生)

   銀賞:就寝後 いつもやさしい おじいさん にこりと笑顔 「明日も元気で」

         チャン ティトゥ チャン さん(令和3年度卒業生)

   銅賞:介護とは やりがいがある きつくても みんなの笑顔 守りたいもの

         唐 鑫(トウ キン)さん(人間健康科介護福祉専攻1年生)

   銅賞:利用者さん 朝起きてから 身だしなみ 整え今日も いい一日を

         グェン ティ フォン チー さん(人間健康科介護福祉専攻1年生)

金賞をもらったリンさん

なぜ「介護短歌づくり」が始まったのか?

四国大学の「介護短歌づくり」は、私の依頼から始まりました。実は、『人とつながる 介護の日本語』(11月刊行予定)には、さまざまな俳句、川柳、短歌が出てきます。それは、1.楽しく学べること、2.利用者さんとの「話のタネ」になること、3.自然な形で「日本の文化」に触れること等をめざしていることが理由です。例えば、「第8 課排泄の介助」には、「TOTOトイレ川柳」から、「第13課 イベント・行事」には「NHK介護百人一首」から引用していました。

しかし、出版社とのやり取りの中で、「できるだけ引用は無しとする」という方針が決まりました。それは、アプリ化する時などに制約がかかる恐れがあるからです。そこで、イーストウエスト日本語学校のコンテスト作品や、自分で作ることにしたのですが、困ったのが介護短歌です。それは、外国の方の短歌を載せたいと思っていたからなのです。留学生は大勢知ってはいるものの、介護のお仕事をしているか、介護を学んでいる人でなければ、介護短歌は作れません。その時すぐに四国大学の元木佳江さんのことが頭に浮かび、ご連絡を取ってみました。すると、早速こんなお返事が届きました。

素敵なお声かけありがとうございます。

この企画、ぜひ、四国大学の在校生、卒業生にさせていただきたいと思います。

介護福祉士を目指し入学してきた1年生、国家試験が現実的なものとなってきた3年生、卒業して働き始めたばかりの新人介護福祉士、卒業後数年経過し後輩もできた介護福祉士、このような人たちに声をかけて、短歌を作ってもらおうと思います。レクチャーを兼ねて、小さなウェブ同窓会ができそうです。

こうして、元木さんによる「留学生介護短歌」への挑戦が始まりました。とはいえ、締め切りは3週間後、本当にタイトなスケジュールでしたが、期間内にみごとな短歌が14首届きました。

銅賞をもらったチャンさん

一粒のタネが、大きな「介護短歌コンテスト」に発展!

元木さんは、私からの「留学生の介護短歌」依頼を受けるとすぐ、「そうだ!これは、学内の短歌コンテストにしよう!そして、学長表彰もやろう」と思いつかれました。さらに、今年だけのものではなく、毎年実施するコンテストとして根付かせることを計画したのです。そして、サイトの紹介文にもあるように、毎年6月を「介護短歌月間」とし、『四国大学外国人留学生介護短歌コンテスト』が実施されることになったのです。

まさに一粒のタネから芽が出て、みごとな花が咲き、その花をこれからも見続けることができるのです。きっと6月に咲く紫陽花のように、年によって色合いが違い、趣も異なる花を見ることができることでしょう。

そして、7月25日に表彰式があり、その時の様子は、動画で拝見することができました。介護を担当していらっしゃる小倉さんによる趣旨説明とメッセージの後、学長から賞状と賞品が贈られました。続く学長からの温かいメッセージに、留学生はどんなにか勇気づけられたことでしょう。「介護の勉強と日本語の勉強、この2つを合わせて短歌で表現することに挑戦したことの素晴らしさ」「介護施設で、利用者さんに短歌を見せて『こういうものを作りましたよ』ということで、交流が広がること」等々、とても温かい言葉がいっぱい詰まっていました。

短歌づくりでのエピソード

ここで、2つほど短歌づくりのプロセスでのエピソードを紹介したいと思います。銅賞となった次の短歌を見てください。

     利用者さん 朝起きてから 身だしなみ 整え今日も いい一日を

チーさんは、今お寿司屋さんでアルバイトをしているため、まだ介護施設で働いた経験がありません。そこで、「介護短歌を作りましょう」と言われた時には、「私は無理です。介護施設で働いていませんから」と答えたそうです。しかし、担当の小倉さんは「大丈夫。この教科書で勉強したことを思い出して、作ってみて」とアドバイスなさいました(『人とつながる 介護の日本語』の試用版を使って学んでいます)。

しばらくすると、チーさんは2課「朝の整容」で習った「身だしなみを整える」ということを思い出し、この短歌が生まれたのだそうです。こうして介護現場を知らない留学生も、教科書にある介護の場面で学びながら、しっかりと知識を身につけていってくれているのだと、嬉しくなりました。また、こうした教師のちょっとした「声かけ」が学習者の学びにとって、いかに大切かを見せてくれたエピソードでした。

また、銀賞を取った卒業生のチャンさんは、こんな短歌を作りました。

     寝たきりの おばあさんの 笑顔見て 大事にしたい いつもの会話

みんなでお互いの短歌を鑑賞しあう時間を取ったことから、在校生の皆さんは、「寝たきり」という言葉をしっかり覚えることができたそうです。こうした生きた「ことばの学び」は、とても大切だと、改めて思いました。こんな楽しみながら、対話をしながら学べる「介護の授業」をめざしたいものです。

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今回の「留学生介護短歌コンテスト」は、「どうしよう!」という困った場面が、みごとに展開した事例であり、まさに「ピンチはチャンス!」であり、仲間との対話で生まれた「チャンス」でした。

 

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