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  多文化共生セミナー~「なぜ基本法が必要なのか」実施報告~分野を越え、垣根を越え、オールジャパンで動きませんか~

  

2022年7月25日、オンランにて多文化共生セミナーが実施されました。これは、NPO法人中信多文化共生ネットワーク(CTN)と、明治大学山脇啓造研究室が主催団体となり、実施されたセミナーです。社会において多文化共生基本法(以下、基本法)が、なぜ必要なのか、さまざまな方々が、それぞれのフィールドから、何を考え、どう動こうとしているのかについて語り合う<2時間セミナー>でした。

■当日のプログラム(17時~19時)

プログラムは、以下のとおりです。盛沢山の内容ですが、それぞれの分野から「基本法制定への思い」を語りました。

    ・挨拶    芝山実(松本市議会議長)

    ・「長野県の基本法をめぐる動向」   佐藤友則(信州大学&NPO法人CTN)

    ・「相談」の現場から考える基本法  丸山文(NPO法人CTN)

    ・「横浜市が進める多文化共生と基本法のニーズ」 橋本徹(横浜市国際局)

    ・「外国人集住都市会議と基本法」   古橋広樹(浜松市国際課)

    ・「基本法が必要な理由」        山脇啓造(明治大学)

    ・パネル・ディスカッション「基本法の制定に向けて―次のステップを考える」

       パネリスト:

         出井博文(弁護士)、嶋田和子(アクラス日本語教育研究所)、山脇啓造

       コメンテーター:

         古橋広樹、丸山文

       司会:

         佐藤佳子(NPO法人CTN)

    ・全体コメント  務台俊介(自民党・衆議院議員)

    ・全体コメント  下条みつ(立憲民主党・衆議院議員)

    ・閉会のあいさつ 佐藤佳子

    

■なぜ松本市で実施したのか?

長野県では、去年から今年にかけて、長野県議会、安曇野市議会、松本市議会で「多文化共生基本法の制定を求める意見書」が可決されました。

長野県議会の要望書(2021.10.1提出)の最後の段落には、以下のように記されています。

今後も、外国人の一層の増加が見込まれ、外国人が日常生活や職業生活等を 国民と共に円滑に営むことができる環境を更に整える必要があることから、多 文化共生に関する国や地方自治体の責務等を明らかにするとともに、施策を推 進するための財政措置や体制の強化が求められている。 よって、本県議会は、国会及び政府において、外国人が地域社会の構成員 として共に生きていくため、多文化共生社会に係る基本法を制定するよう強く 要請する。

安曇野市議会は、2021年6月に「安曇野市多様性を尊重し合う共生社会づくり条例」を可決しました。また、松本市議会では、2022年3月に「多文化共生の基本法に関する意見書を国に対して提出を求める請願について」が採択されました。

こうした長野県内における動きの中で、このたび信州大学にて多文化共生セミナーを実施することとなりました。

■「SUZUKA宣言」に見る「基本法」と「多文化共生庁」

2001年にスタートした外国人集住都市会議では、毎年宣言が行われます。2022年1月28日に鈴鹿で行われた会議での「SUZUKA宣言」の最後には、多文化共生基本法の必要性について触れています。https://www.shujutoshi.jp/2021/s08.pdf

その取組を早急に実現するためには、これまでのように多文化共生の分野から各施策に訴えていくのではなく、教育、就労、福祉、防災など、あらゆる分野から多文化共生を考えていく体制づくり、つまり基本となる法律の制定と今後の施策を省庁横断的に推進していく「(仮称)多文化共生庁」が不可欠である。 ポストコロナ時代における先行きの不透明な中でも、国と地方自治体等が連携を強化し、垣根のない多文化共生施策を推進することで、外国人住民一人ひとりが安心して生活でき、地域において活躍できるよう、私たち外国人集住都市会議は設立 20 年を超える多くの経験と自治体間の連携を強みとして活かし、引き続き取組を推し進めていく。

これまで集住都市会議では、省庁横断的な組織の必要性が繰り返し述べられてきましたが、今回の鈴鹿の会議ではじめて「法律の制定が不可欠である」と明言されました。これは、大きな前進であると言えます。鈴鹿会議に関しては、コーディネーターであった山脇氏による詳しい報告記事がアップされています。

        http://www.clair.or.jp/tabunka/portal/column/contents/115561.php

■「多文化共生セミナー」における登壇者の意見

◆浜松市鈴木市長からのメッセージ

 セミナーの冒頭で、浜松市の鈴木市長からのメッセージが読み上げられました。ここに引用して、ご紹介します。

これまでの多文化共生の取組は、地方自治体の裁量に委ねられるところが大きく、推進力に欠けていることが課題でした。2019年4月に国が新たな外国人材の受入れ・共生のための制度、体制を整備しましたが、今後は多文化共生施策推進の根拠・土台となる基本的法律を制定した上で、責任の所在も明確にしながら社会統合政策の推進に向けた施策を確実に進めていくことが必要だと考えます。

この度のセミナーが盛大で実りあるものになりますことを心からご期待申し上げます。

                         浜松市長 鈴木康友

◆佐藤友則氏 「長野県の基本法をめぐる動向」

 昨年6月の安曇野市議会において「外国人政策全般の検討による外国人基本法制定を求める意見書」を国に提出することに関して、本議会で可決されました。その後、長野県議会、松本市議会へと、この動きは波及していったことを簡潔に説明しました。

 松本市を活動拠点とする佐藤氏は、松本市におけるNPOと地方行政との協働実態について述べたあと、現状と課題、そしてこれからに向けて、以下のような発信がありました。

      地方自治体が主体では限界あり

      今日のセミナー「基本法の制定」を!

◆丸山文氏 「「相談」の現場から考える基本法」

 ソーシャルワーカーとして活動する丸山氏は、相談の現場での課題、それを解消すべく取り組んでいることを説明しました。大切なのは「相談事業の体系化」であり、「目的・理念・方法の共有に向けた『SOP=Standard Operational Procedure(標準作業手配)』が提示されました。課題としては「ミクロでの支援/メゾミクロでの相談の体系化」では、限界があるとし、「マクロレベルでの変革の必要性」について触れ、以下のように基本法への期待が述べられました。

   基本法への期待

    ・「人」への支援だけではなく、根本的な問題解決

    ・多様な人々が資源や機械に平等にアクセスできる個性や能力を発揮することを

     促す社会体制の構築

◆橋本徹氏 「横浜市の取組と基本法」

  橋本氏は、「横浜市が進める多文化共生と基本法のニーズ」と題して、横浜市の多文化共生まちづくり指針の基本方針と推進体制の紹介をしました。2018年度より毎年、国に向け「外国人材の受入れ・共生のための環境整備に係る要望」を行ってきました。その内容は次のとおりです。

   *地方自治体が行う共生に向けた取り組みに対する財政支援の拡充

   *多様性と包摂性に加えて、ウクライナからの避難民等受け入れを含めた外国人受け入れ環境の整備

共生社会の実現に向けて政策の持続性の点からも、多文化共生社会基本法は必要であると締めくくりました。

 

◆古橋広樹氏 「外国人集住都市会議と基本法」

 古橋氏は、2001年に浜松でスタートした「外国人集住都市会議」の背景・取り組み成果などを伝えた後、自治体における「外国人との共生」に関して、現状と課題を述べました。

課題としては、1.施策実施の根拠となる基本的法律がない、2.国と自治体の役割分担が法定されていない、3.十分な財政措置が確保されていない、以上3点を挙げ、最後に、基本法に期待する点について、次のように述べています。

   *省庁横断的な司令塔機能を持つ組織として「(仮称)外国人庁または(仮称)多文化共生推進庁」

    を内閣府に設置

   *自治体が必要な施策に要する恒常的かつ十分な財政措置

 

◆山脇啓造氏 「多文化共生社会基本法が必要な理由」

 まずは、2026年度までを対象期間とした「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」の紹介があり、さらに、「体制整備への言及がないこと、役割分担や連携の在り方が不明である点などが弱点として挙げられました。そこから「基本法」の必要性について述べるにあたり、韓国、ドイツ、台湾の事例の説明の上に立って、日本の特徴、すべきことなどについて提示しました。ここに、最後に言及された「体制整備」に関する2点について、パワポ資料より引用してご紹介します。

  体制づくり―法律

   *多文化共生を推進する法律  

  体制づくり―組織(多文化共生庁)

   *在留支援課の既存事業  

*社会統合プログラム(日本語教育・日本理解)の企画運営  

*多文化共生社会の担い手育成

(以下省略、全6項目記載)

◆パネル・ディスカッション「基本法の制定に向けて―次のステップを考える」

 パネルでは、関東弁護士連合会「外国人の人権救済委員会」の委員長を務める出井さんは、これまでの活動のご経験を踏まえ、日本社会における現状や課題を述べたあと、結論として「多くの分野で配慮が必要」として、以下の4つのことを挙げました。

   *一つの基本法で、あらゆる分野を見直していく。

   *外国人に、日本社会になじんでもらう必要がある。

   *自力で生活していけるよう、各種の工夫が必要である(だから基本法が重要)。

   *外国人に関する問題を解決することで、日本社会の進化を図る必要がある。

 筆者は、「日本語教育の推進に関する法律」の公布・施行に至るまでの経験を踏まえ、1.超党派での取り組み、2.オールジャパンでの取り組み、3.現場での理解を深める活動の3点が大切であることを、実例を挙げて伝えました。また、推進法を効果的に進めていくには、「多文化共生基本法」と「省庁横断的な組織」が必要であると述べ、そのためには以下のことをオールジャパンですべきであると伝えました。

  *今回、「NAGANO宣言」を出し、見える化を図る。⇒「発信」

  *一般の方々が「多文化共生社会の一員」として自覚できるように働きかける⇒「対話」

  *オールジャパンに向けて協働を図る。 ⇒「協働」

 このあと、前半でお話しくださった「山脇さん/橋本さん/古橋さん/丸山さん」よりコメントがあり、参加者からの質問もいくつか受け、パネルは終了となりました。

     ◆    ◆   ◆

パネルが終わったところで、務台俊介氏(衆議院議員、自由民主党)からのメッセージ、また、ご参加が難しくなった下条みつ氏(衆議院議員、立憲民主党)からのメッセージの代読がありました。今回のセミナーは、さまざまな分野で活動している方々が発信をし、語り合い、新たなつながりが生まれたセミナーとなりました。

最後に、主催者である山脇氏と佐藤氏によって「長野宣言」が読み上げられ、セミナーは幕を閉じました。「多文化共生基本法」を考えるタネがアチコチで蒔かれ、芽を出し、花を咲かせる日が1日も早く来ることを願ってやみません。

★本多文化共生セミナーに関しては2023年7月「信州大学総合人間科学研究」第17号に論文が掲載

           file:///C:/Users/kazus/Dropbox/Desktop/arts_and_science17-15.pdf

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