現場から

実施報告「中野区長と留学生の懇談会:外国人住民への情報提供-多言語化とやさしい日本語-」(2022.6.29)

今年で9回目となる中野区長と留学生との懇談会が、6月29日に行われました。主催は明治大学国際学部山脇ゼミ、協力は中野区ですが、今年は、協力団体にイーストウエスト日本語学校とアクラス日本語教育研究所が加わりました。年を追うごとに、より地域社会に根付いた「中野区長と留学生の懇談会」に進化してきています。

コロナ禍で、これまでオンラインでの実施でしたが、今年は、明治大学の会場に登壇者が並び、限られた参加者ではありますが、それぞれパソコンを持ってZOOMでの参加、そしてオンライン参加の方々というハイブリッド実施となりました。

登壇者

 *センドウ・ケフィンさん     (インドネシア・明治大学大学院)

  *チェン・ルイホン・デイビッドさん(マカオ・湘南工科大学)

  *リン・リンさん         (香港・上智大学)

  *ダニエル・フリードさん     (ドイツ・明治大学)

  *李佳さん            (中国・イーストウエスト日本語学校)

  *張夢瑶さん           (中国・イーストウエスト日本語学校)

  *クォン・ア鉉さん        (韓国・明治大学)

  *桝田菜々香さん         (日本・明治大学)

■自治体のサイト比較から見えてくること

8人の学生さんのうち、4名が中野区在住であり、まずは、1.中野区に住んで良かった点、2.改善してほしい点、等について率直な意見が交わされました。去年は、主にワクチン接種情報についての意見交換でしたが、今年はさらに「自治体の情報発信のあり方」そのものについての鋭い意見が幾つも出されました。

サイトに関しては、まずは明治大学の学生さんから中野区のサイトについてのコメントがあり、次に「新宿区/港区/静岡市/横浜市/小平市」に加え海外の都市のサイトとの比較の中で、「何が足りないのか/どのように改善すればいいのか」等について指摘がありました。

それぞれに優れた点や不十分な点が見られましたが、全体として次のような課題が浮き彫りになりました。

  ・多言語化に関ししては、自治体によってかなり差がある。

  ・やさしい日本語の使用は、まだまだ十分ではない。

  ・翻訳された語彙が自治体によって違っている。

  ・地名翻訳などが適切ではないものがある。

  ・機械翻訳は、画像やPDFに対応できていない。

  ・多言語化や、やさしい日本語の際のガイドライン策定が必要である。

   

■「なかの区報」のあり方を見直す

サイトに加え、「なかの区報」についても鋭い意見が出されました。ある留学生は、この懇談会に登壇することが決まってから、住んでいるマンションの住民が「なかの区報」にどのように対応しているかについて調査をしました。結果は、ほとんどの人が見ずに、ボックス(郵便受け)からゴミ箱に捨てていたという事実に気づいたそうです。

「なかの区報」をボックスから出すと、多くの人がゴミ箱に捨てていました。これは本当にもったいないと思います。だから、内容ですが、もっとみんなが読みたくなる内容にするべきだと思います。それに、外国人と日本人とでは、ほしい情報が違います。そのことも考えてほしいと思います。

  実は、「なかの区報」の最後のページを見て初めて、区役所のサイトにPDFで「なかの区報」が載っていることを知りました。そういう情報も、もっとわかりやすく伝えてほしいと思います。

外国人にとって有益な情報、という点では、「ソウルでは、韓国人向けの情報を、ただ他言語に翻訳するのではなく、外国人にとって読みたくなる情報がアップされている」という韓国人留学生からの発言がありました。「相手の立場に立って情報発信を考える」という姿勢が求められます。

■サイトにおける翻訳の課題と可能性

今は、機械翻訳がどんどん進み、自治体によっては、かなりの言語の翻訳が載っていますが、次のような課題があると言います。

  ・翻訳されているページが限られている(一部の情報しか翻訳されていない)。

  ・トップページで切り替える時のボタンが見やすい所にない。

  ・翻訳されていても分かりにくく、時には、間違った翻訳のことも多い。

  ・自治体ごとに、それぞれの語彙に関する翻訳が違うのは、おかしい。

     例:マイナンバーカードの中国語訳が統一されていない。

      英語で「My number card」と書かれていても、何のことかわからない。

機械翻訳の不正確さを考えると、やはり人による翻訳が求められるという声が出ましたが、それに対して「正しく翻訳するためには人手がかかるので、制約がある」という回答がありました。それに対して、次のような意見が出されました。

  *一度機械翻訳したものを、ネイティブチェックしてはどうか。

  *留学生なども協力する体制ができたらいいのではないか。

外国人は支援してもらう側ではなく「ともに社会をつくる仲間」という考えに立って、忌憚なく意見を交わし、協働し、何かに取り組んでいけることこそが、真の意味での共生社会づくりにつながるのだと思います。

■やさしい日本語の普及への期待

留学生から何度も意見が出されたのは、話し言葉における「敬語の多用」であり、役所などから出される文書の分かりにくさでした。「やさしい日本語」が社会に広まってきているとはいえ、まだまだ十分ではありません。

中野区では、昨年から山脇ゼミ生による「中野区役所職員を対象とした<やさしい日本語セミナー>」を実施しています。大学生が地元の区役所のスタッフに「やさしい日本語」のワークショップを実施するという企画は、すばらしいことだと思います。

それでも、留学生からは「窓口での対応が、とても丁寧なので分かりにくい。敬語をあまり使わないでほしい」等といった意見が出てきました。一般の方々の意識改革がまだまだ求められています。また、「そもそも機械翻訳にかけるための日本語の文章そのものを、分かりやすい日本語にすべきではないか。元の文章が複雑で日本人にも理解しにくいものだから、機械翻訳でも誤解が生まれる。だからこそ<やさしい日本語>が求められる」という意見も出ました。

「やさしい日本語を使わなければ!」と、何か特別なことを求められているなどと思わず、「相手に分かりやすい言葉で伝える/相手の立場に立ってコミュニケーションを考える」という思いで、他者に接することで、かなりのことが解決されるのではないでしょうか。これは<留学生 vs 日本人>ということではなく、日本人同士でも、誰にとっても大切な視点ではないでしょうか。

■「対話」を重ねることの重要性

今年で9回目を迎えた「留学生と区長との懇談会」ですが、回を重ねるごとに住民である留学生からも、多様な意見が飛び出し、またその解決策も提示されるようになりました。継続していくことの大切さを改めて感じた今年の懇談会でした。最後に、酒井区長のメッセージをお伝えしたいと思います。

去年は、コロナワクチン接種に関する情報をより分かりやすく届けてほしいという意見が多く出されました。今年は、ホームページ、SNSの発信などについていろいろな意見が出てきて、とても参考になりました。外国人の視点から、他の自治体のHPと比較して話してもらえたので、具体的に課題が見えました。

中野区役所では、ちょうど新しいHPの作成を考えているところなので、外国人にも区の発信に関して手伝ってもらったり、モニタリングしたりしていけるような仕組みをぜひ考えたいと思います。

来年は記念すべき第10回「中野区長と留学生との懇談会」となります。大学生が自分たちで企画運営している懇談会は、区政と住民とのつながりを強くし、多文化共生に向けて確実に一歩一歩進んでいっています。こうした若者の力、多様な国・地域から来た人々の力で、さらに「誰にとっても住みよい中野区」に変えていってほしいと願いながら、明治大学を後にしました。

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