現場から

  『東京女子大学 翻訳者に聞く」』を手にして~杉並区子ども日本語教室での出会い~

杉並区子ども日本語教室では、できるだけ地域社会とのつながりを大切にしたいと、教室の受け付業務は、東京女子大学の学生さんにもアルバイトとして一部担当していただいています。これは、大学生の方にとっては身近に「子どもの日本語支援」の様子を見ることができ、また、子ども達にとっては「大学生のお姉さん達」と触れ合うことができ、いろいろな点でメリットの多い体制です。

その中のお一人、大学4年生の李韶敏さんから『東京女子大学 翻訳者に聞く』をプレゼントしていただきました。

これは、国際英語学科の学生自主研究有志による<グループ「ほ・ん・や・く」>が作成したものです。15人の東京女子大同窓生で、翻訳の世界で活躍している方々に、学生さん達が一人一人丁寧にインタビューをして、それをまとめ上げた一冊です。

翻訳の世界でも、実にさまざまな分野でご活躍の方々が登場。その方々に対して、大学4年生が分担して、すてきなインタビューをしています。事前にしっかりと調べ、いろいろな資料を読み込んでからのインタビューということがよくわかる質問であり、感想(「お話を伺って」)もとても気持ちを込めたものとなっています。15人の方は、以下のとおりです。

・小勝千尋さん(学生新聞記者・編集者)      

・小川尚美さん(フリーランス通翻訳者)

・鹿児島有里さん(フリーランス編集者)        

・叶谷敦子さん(日本翻訳家協会理事長)

・三辺律子さん(英米文学翻訳者)           

・篠原有子さん(日本語字幕翻訳者、日本通訳翻訳学会会長)

・田中美保子さん(現代イギリス児童文学研究・翻訳者)

・田中泰子さん(ロシア文学文化研究・翻訳者)  

・西村醇子さん(英米児童文学研究者)

 ・堀祐子さん(イギリス現代演劇研究者)       

・松浦可琳さん(法律事務所パラリーガル)

・松岡和子さん(戯曲翻訳者、演劇評論家)     

・馬渕聖子さん(社内通翻訳者)

・百々佑利子さん(児童文学研究・翻訳者)     

・山上紗苗さん(字幕翻訳チェッカー)

この冊子を作った背景について、「はじめに」にしっかり書かれています。

・・・・・・来年、国際英語専攻が幕を閉じ翻訳の授業ほぼ全て姿を消すことへの悔しさ、翻訳から学んだ物事を複眼的に見る力、異文化に対する寛大な姿勢こそ人生に活かしたいという意志、です。

  ここから、このプロジェクトが動き始めました。お手本を探していた折、先輩方の『東京女子大学卒業生の翻訳家に聞く』(2009)と出会い、その姉妹編的な位置付けの冊子を制作することにしました。これにより、東京女子大学出身の先輩や先生方が言葉や文化を学び、考え、伝えてきたことを確認できるとともに、記録として残せると考えたからです。(p.4)

どのお話も感動とともに拝読しましたが、大学時代講義で、そして家でシェイクスピアのさまざまな作品を読んだ者として、松岡さんのお話を少し引用したいと思います。

◆<「シェイクスピアの翻訳で、大事にしていること」という問いに対して>(p.139)

訳文で引っかかる部分があれば、反故紙に原文を手書きします。シェイクスピアがどんな意図でその言葉選びをしたのか、整理しながら何度も書いて考えて、しっくりくる解釈を探します。倒叙になっていれば語順を戻して書く。場合によっては昔の英語を今の英語に直して書く。そうやって整理して意味をとっていく。このプロセスは、いわばシェイクスピアの思考の追体験でもあります。

◆<松岡先生にとって「翻訳」とはどういうものか」という問いに対して>(p.145-146)

私は、あらゆる人間の表現活動「翻訳」だと思っています。つまり、人間は様々なものを感受して、それを自分の中で捉えて考えて熟成させて、表現する。そのときに、音で表現したい人は風景を見ても音楽になるし、ビジュアルな人は音を聞いても絵になるし。人間が、耳でも目でも肌で感じるものでも、口の中に入れておいしいって感じることも、それを何か別の形にするときは翻訳なんです。「翻訳」という言葉だけ見ると、文章を違う言語から自分の母語で表現することと捉えられがちだし、もちろん間違っていないのですが、仕事としての翻訳と同時に、私という人間が日々生きていて、何かを感じる。それを表すことも翻訳だなと強く感じます。

下にあるQRコードから、どなたでもご覧になることができます。ぜひお読みいただけたら、嬉しく思います。本日、李さんから頂戴したメールの一部を引用することとします。

                     ※引用の許可はいただいてあります。

改めて簡潔に説明させて頂きます。昨年度、前期学生研究奨励費として、ゼミの有志の学生たちと共に東京女子大学に関係する15名の女性翻訳者へのインタビューを行い、冊子作りを行いました。1月に冊子『東京女子大学 翻訳者に聞く』が完成し、この度、2024年度学生研究奨励賞に選出されました。
翻訳という分野は日本語を学ぶ学生やそのような学生たちと関わる日本語教員の方々にとっても学びの多いものだと感じました。もし可能でしたら、冊子をたくさんの方にご紹介していただければと考えております。添付させて頂きましたQRコードで冊子全体を電子版としてご覧いただけます。

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