現場から

「受けた教育は、誰からも奪われない!」と語るクリスチーナさん~人生を変える「ことばの学び」~

      

浜松市で活躍する日系ブラジル人三世のクリスチーナさんの生き方については、『外国にルーツを持つ女性たち 彼女たちの「こころの声」を聴こう!』(2020,ココ出版)の第11章、12章で紹介しました。その生き方、考え方には多くの方が共感し、メッセージをくださいました。

そして、2年後の10月8日、クリスチーナさんのお宅にお邪魔して、さらにさまざまなことを伺うことができました。生き生きと語るクリスチーナさんの姿を見ながら、今回は、「ことばを学ぶことの意義」ということを軸にして、クリスチーナさんが語ってくださったことをお伝えしたいと思います。

 

■失った「道」は、また必ず自分の前に現れる!~アップダウンの人生、「ダウンの時」が決め手~

クリスチーナさんは、ブラジルで大きな夢を持って準備をしていた大学進学を、既に日本に働きに来ていた「両親の呼び寄せ」で日本に行くことになり、打ち砕かれました。それが決まった時には、「なぜ、そんなことになるの?」と、一人泣き崩れたそうです。ブラジルの大学に入るために、どんなに力を入れて頑張っていたか……。世話になっていたおじさんの家では、勉強は10時には終えるようにというルールがあったので、電気が消えた後は、庭に出て月明りで勉強した日もあったそうです。クリスチーナさんは、次のように語ってくれました。

私に教育を与えるために、日本で仕事を一生懸命頑張っていた親に感謝の気持ちとして大学進学を考えていました。私はブラジル、そして家族は日本にいたので3年間離れ離れに暮らしていました。だから、私は勉強に必死に取り組んでいました。その姿を、勉強をがんばっていることを「大学進学」を通して、家族に感謝の気持ちを伝えたかったんです。でも、事情が変わって、日本に行かなければならなくなりました。

自分の人生に「取り返しのつかない大きな穴」が開いたように感じたクリスチーナさんですが、「日本で何かいいことがあるはずだ。人生のダウンには、必ず意味がある」と、すぐに気持ちを切り替えました。

長押の「おおきなかぶ」

日本に来る飛行機の中でのエピソードをご紹介しましょう。クリスチーナさんは、初めて乗る飛行機で「パイロットの姿をちょっとでも見たい」と思いました。そこで、キャビンアテンダントにそのことをお願いすると、意外にもOKという返事が返ってきました。しかし、なかなか呼びに来てくれません。「やっぱり無理だったんだなあ」と諦めていたのですが……。

実は、パイロットは富士山が眼下に見えるところに来た時に、声をかけようと思っていたのです。長い道中、キャビンアテンダントはクリスチーナさんとのおしゃべりを通して、どんな思いで日本に向かおうとしているのかを知っていたからなのです。

「さあ、どうぞ!」と言われていくと、ちょうど富士山が見えるところに来ていました。パイロットやスタッフは、クリスチーナさんに富士山を見せて「日本に行ってもがんばってください!」というメッセージを伝えたいと思っていました。

    あそこに山が見えるでしょ。あれは富士山です。

    日本で一番高い山ですよ。

お台所のお人形

「ああ、やっと日本に着いたんだ。おじいさんとおばあさんが住んでいた、いつも話していた日本なんだ!」と、感動に胸が震えたと言います。

■日本語を学んでこそ、日本社会で道が拓ける!~自分の思いは、自分のことばで相手に伝えたい~

日本語がゼロに近い状態だったクリスチーナさんは、部品工場のラインで働き始めました。

      お台所に鳥が三羽いました

でも、仲間と集まってポルトガル語で話し続けるのではなく、できるだけ日本人に話しかけるようにしました。それは、「相手のことを知りたい。日本のことも知りたい」という思いからでした。そうすることで、話しかけられた日本人も、クリスチーナさんに関心を持ち、「日本語を、日本のことを教えてあげたい。こんな写真を見せてあげたい」と、関わりが深まっていきました。

こうして、コミュニケーションのためにも日本語の必要性を強く感じましたが、キャリアという点でも、日本社会で活動していくには、「日本語を、目標をもって学ぶことの大切さ」を強く感じていました。「勉強時間は、作り出すもの」と語るクリスチーナさんは、残業が多い職場で必死に働いていましたが、それでも「水曜日の夜は、日本語の教室があるので、残業はしなくてもいいですか」と上司にお願いをして、通い続けました。

今は、AI翻訳が進んだり、多言語化のサポートが充実してきたりしていますが、日本で暮らしているんだったら、日本語を勉強することは必要です。何か資格を取ろうと思っても、日本語が要りますね。だからそのことを、子どもたちにもちゃんと伝えることが大切です。

だからこそ、自分が歩んできたアップダウンの多かった道を「継承語としてのポルトガル語」を教えながら、子ども達に伝えていきたいと思っているクリスチーナさんです。人を育てる仕事、教育にいつまでも関わっていたいと思っています。「受けた教育は、誰からも奪われません。自分の財産、自分の宝物になっていきます」と語るクリスチーナさんは、これからも自分自身も学び続けていきたいと、目を輝かせながら語ってくださいました。

■日本人がポルトガル語を学び、日系の子どもたちと交流する意義!~「日本人もポルトガル語を知りたいんだ!」と喜ぶ子どもたち~

クリスチーナさんは、子ども達に継承語としてポルトガル語を教える一方、日本人を対象にしたポルトガル語講座の講師も務めています。講座では、日系ブラジル人の子ども達との交流することもありますが、それは日本人の学習者にとっては、ポルトガル語を使う良い機会となります。しかし、それ以上に、日系ブラジル人の子ども達にとって、大きな意義があるのだと、クリスチーナさんは、次のように語ってくれました。

継承語としてポルトガル語を「なんで勉強しなければいけないの」と思っている子ども達もいます。マイノリティを感じてしまっているんですね。でも、「日本人がポルトガル語を勉強している!私の国のことばを知りたいんだ!」と生き生きとしてくるんですね。だから私は、日本の人達に「皆さんがポルトガル語を学ぶということは、ブラジルの文化を学ぶことは、一人の子どもさんを助けているんですよ、皆さんは大切な存在である」って、言っています。

そして、継承語としてのポルトガル語を学ぶ際にも、親の意識が大切であり、「なぜ学ぶことが必要なのか」「自分のことばに誇りを持つことの大切さ」を伝えてほしいと言います。

ただ、「勉強しなさい」というのではなく、親も一緒にやろうという姿勢が大切です。もちろん親が日本語を学んでいる姿を見せることも大切ですね。そして、2つの言語を学ぶことの意義、つまり、日本語とポルトガル語の2つの言葉を知っていることで、比べることができますね。言葉も、文化も。それはとっても大きな力になるんです。

■移民の劇「ブラジル×日本 融和のあゆみ」は進化し続ける!~元PTA仲間と結成した「セメンチーニャ」を軸に

2019年に発表した「移民の劇『ブラジル×日本 融和のあゆみ』に関しては、『外国にルーツを持つ女性たち 彼女たちの「こころの声」を聴こう!』第12章において、詳しく紹介しました。全スクリプトも載せてありますので、お持ちの方はどうぞご覧ください。この記事では、その後のことをお伝えしたいと思います。

この劇は、大きな反響を呼び、コロナ禍にもかからわず、以下の2か所で行うことになりました。また、それぞれの場所での実施に際して、クリスチーナさん達は、シーンを入れ替え、その対象者にふさわしいものにしていきました。

  2021年1月 浜松市立開成中学

  2022年3月 浜松国際交流協会

開成中学で実施する際には、日系ブラジルの子ども達が、学校で苦労している場面を入れました。そのシーンでは「私の思いは誰も分かってくれない。みんな私は馬鹿だと思っている。ブラジルではあんなによく出来たのに……」と悩む子どもに対して、先生はこう語りかけます。

    そんなことはないですよ。諦めてはダメです。

    あなた一人じゃないんですよ。みんなで一緒にがんばっていきましょう。

そして、浜松国際交流協会主催の移民劇では、対象者が成人であることから、多文化共生の視点から、ゴミ出しの際のトラブルのシーンを付け加えました。こうして進化し続ける「セメンチーニャ」が作った移民の劇は、これからも浜松市で上演され続けることでしょう。実は、クリスチーナさんは「この劇、ブラジルでやりたいんですよねえ~~~」と熱く思いを語ってくれました。さてさて、どこまでスパイラルに展開していくことでしょう。とても楽しみです。

追記:

*セメンチーニャ:ブラジル人コミュニティでボランティアとして活動している母親を中心としたグループ。ブラジルの文化的価値の継承、ポルトガル語を継承語として維持することなどを通して、よりよい多文化共生社会の構築を目指す。

*動画<移民の劇「ブラジル×日本 融和のあゆみ」ができるまで>

■みんなが集える場づくりを!~幸せを共有できるコミュニティをめざして~

クリスチーナさんは、今ではしっかりと浜松という町に根を下ろし、仕事にボランティアに忙しい毎日を過ごしています。どこまでも教育に関する仕事をしていきたいと抱負を語りながら、こんな夢について話してくださいました。

私は今、本当に幸せです。家族、良い仲間、やりがいのある仕事があり……。だからこの幸せを、いろんな人に与えられる人になりたいんです。私だけ幸せになったら悪いですね。私は自分のヒストリーを大切にしています。だから、みんなが集えるコミュニティを作って、それぞれのヒストリーを大切にした人との関わりを持てるといいと思っているんです。

最後に、日本社会で暮らす日系の方々へのメッセージをお願いしました。体験から生まれたことばほど心に強く響くものはありません。

  私の人生には、アップダウンがたくさんありました。でも、ダウンには何か理由がある、何かメッセージがあると思ってるんです。ダウンの時こそ、自分を振り返って「こういうふうにやっていかなければいけない。もう少しこういうふうな考え方をしよう」と、自分で整理することが必要なんですね。でも諦めない、絶対に諦めないこと。ダメになった時は、「ああ、それは今の時期じゃなかったんだ」と思って、前を向いてがんばる。そうしたら、またチャンスが、道が現れてくるんです。

  それから、どんなに辛いことがあっても、相手を悪く思わない。何か意味がありますね。そして、感謝をすることを忘れないことだと思います。

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