現場から

 「大村はま文庫」を訪ねて~「大村はまの実践」を大切に守り続ける鳴門教育大学~

2月12日(木)、徳島にある四国大学での研修会を終え、帰路鳴門教育大学に寄り、「大村はま文庫」を訪ねました。私は、大村はまの言葉に感動し、その後、ずっと大村はまの書籍を追い続けてきました。でも、文庫があることは、昨年まで全く知りませんでした。さまざまな「縁」のつながりが、こうして私を「大村はま文庫」へと導いてくれました。

昨年の春、こんなことがありました。以前、私の日本語教師養成講座を受講なさっていた望月さんがアクラスに見えました。お茶を入れに席を外した際に、オフィスの本棚を眺めていた望月さんは、大村はまの『日本の教師に伝えたいこと』に目を止めました。

「あ、先生、大村はまの本をお読みですか。」 

「ええ、私は、大村はまの教育観にいろいろ考えさせられます。はまのような姿勢で、学習者に向き合いたいといつも思っているんですよ。」

「実は、苅谷夏子さんという大村はまの教え子の方と、夫は高校の同級生で……」

   

それがきっかけで、苅谷さんを紹介していただくことになり、9月には苅谷さんのお話をアクラスZOOM寺子屋でお伺いする機会を得ることができました。その時の資料や、参加者の感想などは、こちらをご覧ください。

    実践報告:アクラスZOOM寺子屋第31回(学び合い研修 通算91回)

  ことばを育てる人が、「大村はまの実践」から学ぶこと(講師:苅谷夏子氏)

             /https://acrasweb.jp/?p=3367

       参考:大村はま記念国語教育の会 https://omurahama-kokugo.com/

私が大村はまの著作に出会ったのは、2000年頃。ふとしたことから手にした1冊、それは『日本の教師に伝えたいこと』でした。そこに出てくる実践、教師に語りかけることばに、「そうそう、それですよね!」と、思わず声に出したくなるような思いで、読み続けたものです。たくさんの言葉が今の私を作り上げてくれています。いくつか言葉を引用したいと思います。

『日本の教師に伝えたいこと』(1995、筑摩書房)

 なんとなく聞いているのではなく、ある感動、感動とまでいかなくても、心が揺れ動いている。眠っていない、そういう時に、ぐうっと入ってきたことは、忘れないようです。(p.11)

 ですから、漢字一字を子どもの頭に入れるときに、ある場面があって、感動とまでいかなくても、おもしろいと思う、珍しいと思う、感心する、とにかく、心が動く、いきいきと動いている。そういう状態のところへ漢字が入っていったらいいのではないかと思いました。・・・・・・後略(p.11-12)

  私たちの子どものとき、そのもっと前から、漢字を覚えるには、何遍も書くことになっていて、それが嫌で国語が嫌いになったという子もいます。しかし、みなさんお気づきのように、何遍も漢字を書くことがそんなにまで役立っているという根拠はないのです。(p.187)

  私は、漢字は何遍も書いて覚えるというのは一種の迷信のようなものではないかと思っていました。しっかり見ることができる子どもが一番よく覚えます。(p.187)

鳴門教育大学に連れていってくださった元木さんと一緒に記念撮影

鳴門教育大学に、「大村はま文庫」があることは、苅谷さんからお聞きしました。「これはぜひ行きたい!そうだ、2月には四国大学で講演がある」ということで、今回の鳴教大行きとなりました。

帰りの飛行場に向かう途中での訪問だったので、限られた時間でしたが、寄贈された膨大な本の数々を見て、大村はまが自分自身の学びとして、また、中学生が授業で使うための資料としてさまざまな書籍を集めていらしたことに驚きました(これも、3つの大学に寄贈した1つでしかないとのこと)。

 大村はま愛用の椅子がありました。

鳴門教育大学の幾田先生にご案内いただき、閲覧させていただいた学習記録には、感動!一人ひとりきれいに整理された分厚いファイル。そこには、それぞれの学習者の記録、はま先生とのやり取り等々、大切なものがいっぱい詰まっていました。これは、一人ひとりに返すのですが、大村はまが生徒さんに「もしよかったら、私の勉強のために預からせてほしい」と聞いてOKをもらったものが、こうして大切に「大村はま文庫」に貴重な資料として保存されているのです。

付属図書館の2階に「大村浜文庫」がありあす。

大村はまの膨大な学習の記録を目の前にして、その「空気」の中にいられることだけで、幸せでした。そして、自分自身の教師としての姿勢の振り返り、教師教育においてどう伝えていったらいいのか等を考えながら、しばし佇んでいました。

「日本語教育の参照枠」が2021年に公開されて以来、あたかも新しいことが降ってきたかのように、「自律的な学び」「ポートフォリオの活用」等々、現場では騒がれていますが、実は、もうずっとずっと以前から日本の教育では行われてきているのです。外にばかり目を向けるのではなく、もっとしっかり国語教育という他分野、「今」を作ってきた「これまでの長い歴史」に目を向ける必要があるのだと、改めて感じました。「これからもできるかぎりの発信を続けよう」と思いながら徳島を後にしました。

           ◆     ◆     ◆

   鳴門教育大学付属図書館「大村はま先生について」

     /https://www.naruto-u.ac.jp/library/shiryo/002001.html

     <大村はま「学習の記録」の特質>より引用

大村はま先生指導の「学習の記録」について 【特質とその意義】

  大村はま先生は,1928(昭和3)年,諏訪高等女学校に赴任以来,書くこと・作文 の指導を中核として,ことばの力を育て,学習者ひとり一人が社会的存在としての自己を確立するように図ってこられた。
  大村教室では1933(昭和8)年ころから,教室で書くべきこと,考えたこと,一課の終わりのまとめや感想などを「国語筆記帖」に書かせるように導かれた。

    ……中略……

  これらの記録について,大村はま先生は,「学習記録は,一度返しまして,『これは私が勉強したいため,よかったら,私の手許に預からせてほしい』と手紙を添えました。その人たちが,『では,どうぞお使い下さい』と残してくれたもので,私にとって宝物でありました。学習者たちの残した誠実な勉強の姿は,研究テーマの宝庫であり,本当に大事なことだったと思います。子どもをとらえるチヤンスになりました。いろいろな問題について実践のものでないとお話できないような機微があります。私の仕事のほとんどは「学習記録」の勉強にあった。」と語られている。
  現在,この「大村はま文庫」には,1934(昭和9)年に諏訪高等女学校に入学した今井密子さんの1・2年生時の国語筆記帖をはじめ,諏訪高女の卒業生,東京大空襲の時「作文帖」だけを持って逃げたと聞く,東京府立第八高等女学校の吉田(山口)恵美子さんの一年間の作文の記録,また,戦後のいわゆる「大村単元学習」を先生とともにきり拓いてきた深川第一中学校・目黒第八中学校・紅葉川中学校・文海中学校・石川台中学校の学習者の「記録」など,2060冊が保存されている。

  これらの「学習記録」によって,大村はま先生の実践の構造をみていくと,知識・技能を含む学力が重層的に捉えられている。また,目標(学力観)をはじめ,内容・方法・評価を通じて,学習のプロセスが,そのまま学習力・学力となっていることが明らかである。それら学習生活のすべてを学習記録に収斂させていくことによって,大村先生は現在求められている「自己学習力」のもととなる,「自己評価力」を育ててこられた。自己評価力が育った学習者は,いかなる場面においても,自己をみつめ,自己の課題を克服するために,自己学習力を発動して次の学習に取り組んでいく。 そこには,指導者が,常に次の時代をみすえて,もつべきものに関心をもたせ,螺旋状に学力を育てることで,学習力を身につけていかれた実践の営みが浮かびあがっている。

                            橋本暢夫第6代附属図書館長

最後に、私が大好きな言葉・詩を引用して終わりにしたいと思います。

◆ 『大村はま講演集 上 』風濤社 「子どもに楽しい国語教室を」冒頭より

ことばを育てることは
こころを育てることである
人を育てることである
教育そのものである

  

◆最後の詩「優劣のかなたに」

  98歳で亡くなる前日まで推敲を重ねていたという詩「優劣のかなたに」は、さまざまな事を教えてくれます。

優劣のかなたに

優か劣か
そんなことが話題になる、
そんなすきまのない
つきつめた姿。
持てるものを
持たせられたものを
出し切り
生かし切っている
そんな姿こそ。

優か劣か、
自分はいわゆるできる子なのか
できない子なのか、
そんなことを
教師も子どもも
しばし忘れて、
学びひたり
教えひたっている、
そんな世界を
見つめてきた。

学びひたり
教えひたる、
それは 優劣のかなた。
ほんとうに 持っているもの
授かっているものを出し切って、
打ち込んで学ぶ。
優劣を論じあい
気にしあう世界ではない。
優劣を忘れて
ひたすらな心で、ひたすらに励む。

今は、できるできないを
気にしすぎて、
持っているものが
出し切れていないのではないか。
授かっているものが
生かし切れていないのではないか。

成績をつけなければ、
合格者をきめなければ、
それはそうだとしても、
それだけの世界。
教師も子どもも
優劣のなかで
あえいでいる。

学びひたり
教えひたろう
優劣のかなたで。

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