現場から

日本語教育国際研究大会に参加して考えたこと~米国の日本語教育の現状と課題~

8月1日~3日に、日本語教育国際研究大会2024(ICJLE)が、ウィスコンシン大学マディソン校で行われました。コロナ禍があり、2018年のヴェネチア実施以来、なんと6年ぶりの開催となりました。今回は、全米日本語教育学会(AATJ)とカナダ日本語教育振興会(CAJLE)の共催での実施です。きめ細かな実行委員の方々のご準備、運営のお蔭で、非常に充実した3日間となりました。

日本語教育の多様性と専門性を考える」というテーマのもと、3つの基調講演、2つのシンポジウムに加え、さまざまなインタラクティブワークショップ、口頭発表、ポスターがあり、テーマも内容も実に多様性に満ちたものとなりました。参加者数は、対面で542名(内学生77名)、リモートで155名(内学生20名)。やっと訪れた対面での大会で再会を喜び合い、また、新しいすてきな出逢いに感動した3日間でした。

さまざまなことをご紹介したいところですが、今回は、アメリカの日本語教育事情について多くの方にも知っていただきたいと考え、「米国日本語教育事情」にフォーカスすることにしました。今年に入って、何度も米国日本語教育が日本経済新聞において取り上げられました。記事を目にするたびに、「もっと日本における日本語教育との連携が考えられないだろうか」等と考えていました。まずは、3つの新聞記事を抜粋して紹介します(記事の日にちは、デジタル版のものとなります)。

◆2月29日  日本語教育、米国で裾野拡大 教員の移住支援で日米合意

米国での日本語教育強化に向け、日米両政府は日本人教員の米国移住を後押しする。今秋にも日本語を教える資格を得やすい州の情報を公開する。日本語教育は知日派を増やして両国関係を円滑にする役割を草の根から担ってきた。教員が高齢化し先細りする懸念が強まっており、若手教員の確保を急ぐ。

文部科学省と米国務省が2023年10月、教育分野での包括的な協力強化で合意し、日本語教育の充実が盛り込まれた。米国が重要と位置づける言語の中でも日本語を優先的に扱い、米国移住を希望する日本人教員への情報提供を進めることを確認した。

文科省などによると、米国の学校で教えるには資格が必要で、日本の教員免許だけでなく、現地の大学で教育方法などを学ぶ必要がある。単位数などの条件は州で異なる。……後略

◆3月20日  米国で先細る日本語教育 講師の応募減 対策へ日米連携

米国で日本語教育が先細りの危機を迎えている。日本から若手講師らを派遣していた財団は応募者数が減少。米国にある教育機関も3年間で14%減り、教員の高齢化も進む。知日派を増やす草の根からの交流はこれまで両国関係の円滑化に寄与してきた。日米両政府は日本人教員の移住後押しなどを通じてテコ入れを急ぐ。……中略……

国際交流基金によると、米国で日本語を教える教育機関は21年度で1241校で、前回調査の18年度から14%減った。中国語や韓国語との競合などが背景にあるとみられる。

教員の高齢化が進んでいることも先細りの懸念材料だ。米国で日本語を教える教員らでつくる中部大西洋岸日本語教師会が23年10月に実施した調査では、回答した305人のうち半数が51歳以上だった。同会は日本人の若手教師らの就労ビザ取得手続きの緩和や、日本語教師養成プログラムの増加などが必要としている

文部科学省と米国務省はこうした声を踏まえて23年、米国が重要と位置づける言語の中でも日本語を優先的に扱うことなどを確認。日本語教育の拡充に向け①米国移住を希望する日本人教員への情報提供②アレックス財団など民間を含む教員派遣プログラムの支援――などに取り組むことで合意した。

両政府はまず、米国で教えるために必要な条件を記したマップを秋にも公開する。同財団のトム・メイソン会長は「草の根レベルで日米が互いに理解を深めていかなければ太平洋地域の安定が揺らぐ。日本語教育の重要性は増している」と訴えている。

◆4月12日   日本語指導助手の渡米後押し 日米、ビザ要件緩和へ覚書

日米両政府は日本語や日本文化の専門家の交流を増やす協力覚書を交わしたと発表した。米国の学校で日本語を教える指導助手のビザ(査証)取得要件を緩和し、渡米を後押しする。米移住を望む日本人教員への情報提供も始める。米国での日本語教育を強化して知日派を増やし、高度人材の留学拡大などにつなげる。

覚書は10日の日米首脳会談に合わせて交わした。米国の学校が開く日本語講座で教員を補佐する「日本語指導助手」の派遣プログラムを持つ団体を増やし、参加者にビザを出す。有効期間は最長3年にする。

これまで指導助手向けのビザは対象が主に国際交流基金の派遣プログラム参加者に限られ、有効期間も1年だった。条件緩和で日本語や日本文化に関する知識を持つ人材が渡米しやすくする。……後略

こうして話し合いが重ねられ、少しずつ改善策がとられていますが、それには米国で活躍していらっしゃる日本語教育関係者の地道なご努力と、仲間と手をつなぎ、対話を重ね、活動を続けていることが大きく寄与していると言えます。

今回の、シンポジウム「次世代の教育者を育てる」においても、パネリストから現状報告があり、また会場からもさまざまな意見が出されました。「次世代育成」という点では、それぞれの国・地域において取り組むべき課題がありますが、同時に日本語教育全体から見る視点も重要です。まずは知ること、そして理解することが大切であり、その上で、対話を重ね、協働が求められています。

最後に、AATJの森美子会長から頂いたメッセージをお送りします。米国におけるマクロ・ミクロの両面からの動きから、「自分たちが今すべきこと」について改めて考えさせられました。

米国での日本語教育と研究を推進する私たちにとって、日米両国の高いレベルで日本語教育の重要性が文書として認識されたことは、とても喜ばしいことです。しかし、米国全体では外国語学習者が減少しており、それに伴い言語プログラムの縮小や廃止、教師不足といった問題が深刻化しています。日本語プログラムや教師もこの影響を受け、危機に直面しています。

全米日本語教育学会(AATJ)は、米国での日本語教育を支援、推進するため、さまざまな活動を行っています。例えば、年に2回、他の言語教育推進団体と共に、議員や議会に対して言語教育の重要性を訴える活動を行っています。また、危機にある日本語プログラムを支援するため、学校管理者や学区の理事会メンバーなどに嘆願書を送付しています。さらに、AATJのウェブサイトには「日本語プログラムS.O.S.」というページを設け、アドボカシーのアイデアを共有しています。私たちは、日米の高いレベルでの政治的支援と、米国の日本語学習者やその保護者、地域住民による草の根活動が連携し、日本語教育と研究が今後も維持・発展することを願っています。

                                  AATJ会長 森 美子

   参考:AATJ  https://www.aatj.org/

           AATJ Advocacy S.0.S  https://www.aatj.org/advocacy/

写真

①大会の会場となったMemorial Unionです。

②湖畔に広がるキャンパス。いろいろな姿で、「Bucky Badger(あなぐまバッキー)」が歓迎してくれます。

③Memorial Unionはとてもすてきな場所です。学生さん達も、快適に過ごしています。

④芝生の向こうに見えるのは、Bascom Hall。学生さんになった「Bucky Badger(あなぐまバッキー)」>出迎えてくれました。

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