春休みを経て4月、「杉並区子ども日本語教室」は、子ども達の弾けるような笑顔とともに、2年目がスタートしました。小学生対象の教室(高円寺教室)は2023年1月、そして、中学生対象の教室(済美教育センター)は、4月に誕生し、さまざまな人々の協働によって、2つの教室での活動が続いています。
そこで、大勢の人々の熱い思いと協働によって、試行錯誤しながら進んできた「杉並区子ども日本語教室」の誕生までのこと、そして、この1年の足跡についてお伝えしたいと思います。日本社会には、日本語学習支援を必要としている子どもさんが大勢います。さらに「子ども日本語教室」の輪が広がることを願っています。
(1)「区役所・交流協会・教育委員会」の協働による「杉並版 子ども日本語教室」構想
2021年秋のことでした。杉並区交流協会の事務局長から、日本語教室開設構想についてお話を伺った私は、「ついに杉並に子ども日本語教室ができるのだ!」と、胸が高まったことを昨日のことのように鮮明に覚えています。以前からその必要性は理解されていたものの、教室開設にまで至らなかったのですが、コロナ禍でネパール人学校に通う子ども達が公立小学校に通うようになったことなどの理由から、地域社会で「子ども日本語学習支援」を求める声が高まっていたのだそうです。2019年に「日本語教育の推進に関する法律」が公布・施行され、さらに、2021年には「日本語教育の参照枠」が公開されました。こうした国の動きも大きな力となりました。
なんと、<区役所&交流協会&教育委員会>が協力しあい、一体となって企画運営していくという方向性が打ち出されました。日本語教育の専門家として相談を受けた私は、さっそく子ども日本語教育に携わっている仲間達に声をかけました。「子どもの日本語支援」の重要性を痛感している仲間達は、快くチームの一員として活動することを受け入れてくれ、チームでの「子ども日本語教室」についての話し合いが始まりました。
(2)子どもに寄り添い、学びたくなる教室づくり!
2022年4月「外国人等児童・生徒に対する日本語教育推進事業総合調整会議」がスタートしました。そして、教室の内容に関しては、<総括コーディネーター&地域日本語教育コーディネーター&日本語教師>での話し合いを重ね、どういう教室にするか方向性を決めていきました。それを、総合調整会議で諮り、さらに全体として「杉並区子ども日本語教室」の在り方を考えていったのです。大切にした柱を挙げてみます。
*「学びの場」であるとともに「こころの居場所」であることをめざす。
*教科支援ではなく「教科につながる日本語の学び」を支援する。
*学ぶことの楽しさを実感できることをめざす。
*1対1の支援を基本とするが、仲間達とのつながりも大切にした活動をする。
2022年7月「すぎなみ交流ニュース第65号」(2022.7)には、以下のような図が公開されています。
(3)「学び合い」を大切にしたボランティア養成講座、開講!
総括コーディネーターという立場で関わることとなった私は地域日本語教育コーディネーターの永田晶子さんとともに、「子ども日本語学習支援ボランティア養成講座」の案をまとめました。第1回実施は、2022年10月~12月、「杉並版子ども日本語教室」構想が提示されてから、あっという間に企画・実施となりました。定員25名のところに、ご応募は124名、区民の方々の関心の高さに驚きました。
ボランティア養成講座で大切にしたことは、次のようなことでした。
*子供日本語教室を受講する子どもに対する向き合い方や姿勢を学びます。
*対話を重視した「ともに考えること」に重点を置きます。
*子ども日本語教室の現場での臨機応変な対応力を養います。
この講座は、受講する子どもさんの増加を受け、2023年7月~9月に第2回を実施することになりました。ここでは、第2回の養成講座の内容を記すこととします(第2回の養成講座も、120名を超す応募者があり、変わらぬ関心の高さに、感動を覚えたものです)。
参考:第2回杉並区子ども学習支援ボランティア養成講座
https://suginami-kouryu.org/pdf/202304_kodomor.pdf#page=2
(4)1月に、小学生対象「子ども日本語教室」(高円寺教室)スタート
まずは、小学生のクラスが2023年1月にスタートしました。その時のことは、「すぎなみ交流ニュース第68号」(2023.4)に載った<「子ども日本語教室」が1月末から始まりました」>という記事に書かれていますので、抜粋してお伝えしたいと思います。
前号の『交流ニュース』で「子ども日本語学習支援ボランティア養成講座」を紹介しましたが、この養成講座を受講したボランティアたちの協力で、1月25日から「子ども日本語教室」が始まりました。
日本語を母語としない小中学生の日本語学習については、これまで教育委員会が各校に120時間の枠内で訪問指導・補充指導を行い、支援してきました。しかし、時間が足りない、順番待ちなどの課題があり、子ども日本語教室はそうした子供たちへの支援を充実させるために、交流協会と区、日本語教育専門家の三者が連携し、ボランティアとともに実施していくことになりました。杉並区基本構想を貫く3つの基本的理念のひとつ「認め合い、支え合う」地域社会を築くことにつながります。
教室では7か国・18人の生徒とボランティア26人が1対1を基本に、毎週2日、午後4時から6時まで、教科につながる日本語学習支援をしています。……中略……
教室で日本語教師を担う田代奈緒子先生によれば、日本語を母語としない子どもたちには特有のつまづきがあるとのことです。学校の先生たちも気にはかけているものの対応の難しい部分がある。田代先生の役割は、「そうしたつまづきをサポートし、ボランティアと子どもたちとが伴走できるよう声掛けすることで、子どもたちがこの教室に継続して通ってきているのは、自分たちの困りごとに向き合い待っている大人たちがいる、という居心地の良さを感じているからだろう。子どもたちが日本語を使って考え、自分のことを話せるようになるために、どうしたら良くサポートできるか見つけていきたい」と熱く語っておられました。
(5)4月に、中学生対象「子ども日本語教室」(済美教育センター)スタート
小学生対象の教室の誕生から3カ月後の2023年4月、中学生対象の教室が始まりました。それまで、3カ月間高円寺教室で学んでいた6年生は、4月からは中学生教室に移り、これまで待っていた生徒さんも加わってのスタートです。さらに、学校を通して子ども教室に通うことを望む子どもさん達を募集し、増員していきました。こちらの教室も、基本1対1での支援となります。
また、この教室では、主に『中学生のにほんご』を使用しています。 これを取り上げたのは、この教室は「教科につながる日本語支援」であること、また、ボランティアさん達にとって、共通の柱があることで、取り組みやすくなると考えたことによります。もちろんそれぞれの子どもさんに合わせ、他にも個別にいろいろ使用しますが、教室としての共通教材ということで、子どもさんの数だけ用意し、スタートしました(小学生の場合は、あまりにも多様であり、こうした柱になる教材を決めることができませんが~~~)。
中学生の教室で心掛けていることとしては、1対1でのサポートですが、ときには全体で「発表タイム」を設け、生徒さんに発表してもらうチャンスを作るようにしていることがあります。共通のテーマを決め、ボランティアさんと話し合いながら作り上げたものを、大勢の前で日本語で発表することは、それぞれの生徒さんの自信につながり、また、日本語で自分の考えを伝えることの楽しさを味わうことにもつながります。
(6)東京立正短期大学の学生さんによる「参加型コンサート」実施
教室を立ち上げるにあたって、地域社会との連携・協働を大切にした子ども日本語教室にしたいと考えました。そこで、まずは堀之内にある東京立正短期大学の先生方と連絡を取り、新学期に学生さん達に「子ども日本語教室で、イベントを実施するボランティア活動」として声かけをしていただきました。
学生さんは、事前に教室に参加し、「どんな教室なのか」「子どもたちはどんなことに関心があるのか」を調べた上で、「参加型コンサート」実施と決まりました。東京立正短期大学のサイトには、詳しい実施報告が写真とともに載っています(動画もアップされています)。ぜひご覧ください。
/https://www.tokyorissho.ac.jp/info/blog_com/20230703/
ここでは、サイトから一部紹介したいと思います。
「地域研究C」では、「地域に暮らす外国人市民の方達のことを知ろう」というコンセプトで授業が行われています。その一環として、今回は杉並区に暮らす外国につながる子どもたちの日本語教室にお邪魔することになりました。
Step1
様々な国籍の子どもたちが日本語を学んでいる放課後教室で、どうしたら子どもたちが喜んでくれるのか、「地域研究C」の授業内で話し合いをたくさん重ねました。Step2
5月初旬に、実際に日本語教室を訪問し、子どもたちの様子を見学させていただきました。Step3
見学させていただいた結果、教室の広さや子どもたちの活動状況から、歌やダンスなどの案が出た中で、「いっしょに歌う」ことに決まりました。七夕の笹が見守る中、子ども達は、参加型コンサートを思いっきり楽しみました。「ね、私、ピアノできるよ」「これ、どうやって音出すの?」と、いろいろ聞いたり、音楽に合わせて夢中になって踊っていたり……普段の教室では見られない子ども達の姿を目にして、さまざまな発見がありました。
(7)子どもたちの歓声響く「夏休みとうもろこし収穫体験」(忍野村)
7月には、もう1つ大きなイベントがありました。交流自治体である山梨県忍野村での「とうもろこし収穫体験」です。2か月前に、交流協会スタッフが忍野村の畑にとうもろこしの苗を植え、それを子ども達が収穫しに行くという流れのイベントです。高円寺駅前からバスでスタートし、忍野村に向かいましたが、車中でも学年を超え、さまざまな対話の輪が生まれていきました。
とうもろこしの収穫体験、ネイチャークラフト体験、公園での水遊び等々、子ども達にとっては忘れられない思い出となりました。また、ボランティアさん達にとっても、普段とは違う子どもたちの姿を見ることができ、とても楽しく、貴重な時間となりました。「すぎなみニュース第70号」(2023.10)に「忍野村とうもろこし畑」という記事がありますので、どうぞご覧ください。
他にも、お楽しみ会や学年末の修了式など、さまざまなイベントを時期に合わせ、教室の状況を見ながら実施してきましたが、ここでは割愛することとします。ただ、高円寺教室「お正月の遊び」(2024.1)および済美教室「年末パーティ」(2023.12)は、ボランティアさんによるチームが企画・運営をするという形のイベントであったことを、付け加えておきます。これからも、そうした「みんなで楽しむ時間」も大切にしていきたいものです。
(8)「子ども日本語教室 保護者の交流会」、11月にスタート!
ぜひお伝えしたいこととして、11月に立ち上げた「保護者の交流会」があります。高円寺教室に通う小学生達の中には、家が遠く、親御さんの送り迎えが必須の子ども達もいます。送ってきたお母さま方はそのまま教室を見ていらしたり、もう一度出直して迎えに来たりと、さまざまです。
そこで、交流協会スタッフが、「そうだ! この時間を活用して、保護者の交流会をやったらどうだろう。外国で子育てする親として、きっと同じような心配ごとを持っていらっしゃるはずだ」と提案をし、さっそく動き始めました。
第1回は、11月29日、月2回のペースで実施されています。ちょっと第1回の様子をご紹介したいと思います。
交流会では、まずは自己紹介をした後、子どもさんのことで心配なこと、困っていることなどを共有し、その後は、それぞれの家での事例などを話しながら、進めていきました。担当者(交流協会スタッフ)作成の報告メモを参考に、皆さまからの発話も一部ご紹介したいと思います。こうした保護者の交流会は、子どもさん達の学びにとっても、良い影響を与えることであり、素晴らしい取り組みだと思います。交流会は、基本的にやさしい日本語で行います。日本語の堪能な保護者が通訳するので、来日間もない保護者も言葉の心配をせずに参加することができ、とても良い仲間づくりにもつながっています。
【学習のこと】
・日本と自分の国(フィリピン)の教育システムが違うため、どう教えたらいいか分からない。
・ネパールは宿題が多いので、家での時間がない。日本では宿題が少ないので、子どもは喜んでいるが、勉強したくない子はしなくてもすんでしまう。
・中国は宿題が多くて夕方5時~1時まですることもある。日本では5分か10分で終わる。
・国語の宿題が、特に困る。
【学校からの手紙】
・学校からの手紙がわからなくて困るが、みなさんはどうしているのか。
A1:自分は、職場に持って行って、店長に聞いている。
A2:夫と一緒に学校に電話をする。
A3:スマホの翻訳アプリを使うが、学校の手紙は誤訳が多く、意味が分からないことがある。
A4:縦書きのものは翻訳アプリでは読み込めない。
※「困ったらぜひ、ここに持って来てください。一緒に読みましょう」と、スタッフからアドバイス。
【保護者自身のこと】
・NHK(オンライン)のやさしい日本語を1日30分聞いたり、見たりして日本語を勉強した。
・アプリに自分で音声入力して調べている。
※日本語教室、外国人サポートデスクをスタッフから案内。
(9)これからの「杉並区子ども日本語教室」
本来は、4月スタート時点での状況をお伝えしたいところですが、新年度が始まり、学校も落ち着いたところで新たに募集をかけていくため、1年目が終わった段階の教室の状況をお伝えすることとします。
2年目に入った今、まだまだ改善すべき点があり、みんなで対話を重ねていくことが求められています。これまでやってきて良かった点を踏襲し、さらにより良いものにするため、知恵を出し合い、協働を進めていきたいと思っています。
一つ嬉しいこととして、杉並区にある東京女子大学の学生さん3名が、アルバイトとして4月から受付け・教室運営に関わってくださることになったことを挙げておきたいと思います。東京女子大学の松尾慎さんの声かけで、子ども日本語支援に関心がある3名の学生さんが、ご一緒に活動を始めることとなりました。これは、私達教室を運営する側にも、とてもありがたいことですし、また、学生さんにとっても、子ども日本語教室で直接子どもさん達と触れ合えることは、貴重な体験といえます。
さて、今年は、どんな1年になるのでしょうか。わくわくしながら迎えた辰年の卯月「杉並区子ども日本語教室」の初日でした。
◆参考
①子ども日本語教室の立ち上げ、様子を記した『広報すぎなみ』「特集すぎなみビト」(2023.5.15)は、こちらです。/https://www.city.suginami.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/087/782/0515-1-3.pdf
②この記事をPDFにまとめたものは、こちらです。
記事PDF→ /https://acrasweb.jp/wp-content/uploads/2024/04/みんなでつくり上げた「杉並区子ども日本語教室-1.pdf
【写真で見る子どもたちの姿】
※写真は実施団体が撮影、掲載許可を頂いたものです。