現場から

さまざまな機関が連携・協働して行った「留学生のための防災訓練」~イーストウエスト日本語学校の取り組み~

1月31日(火)、イーストウエスト日本語学校(以下、EW)にて「中野区地域防災課 & 中野消防署 & 野方警察署」が合同で、授業の一環として「防災訓練」が行われました。

EWでは、これまでもさまざまな「防災訓練」を行ってきましたが、今回は、「区役所/消防署/警察署」が一緒になって行う「防災訓練」でした。当日、授業に参加した私は、学生達の満足した様子に、「ここまで地域社会に溶け込んだ授業ができるようになるとは!」と、皆さんの地道な努力はもちろんですが、時代の変化を感じました。授業の様子、こうした実践に至るきっかけ等について紹介したいと思います。

■「2023防災フェアなかの」での体験授業(2023.8.31)

昨年8月31日(木)に、中野四季の森公園で「2023防災フェアなかの」が行われました。これは、中野消防署と野方警察署の方がイーストウエストにお見えになり、「参加しませんか」と声をかけてくださったことから始まりました。これまでも、地域のさまざまな機関とつながりはありましたが、こうして合同でお誘いくださったことは、とてもありがたいことだと思います。「防災フェアなかの」には、授業の一環として2つのクラスが参加し、学生達は貴重な体験ができました。

また、現地で行政の方々との対話が進み、EWの教師は、区役所の方からこんな相談を受けました。

中野区国際交流協会(ANIC)の協力を受け、「やさしい日本語版 中野の防災」が完成した(2023.7)。これをぜひ留学生に知ってもらいたい。

今後、それをもとに外国人向けの防災授業をやっていきたいと考えている。EWで「やさしい日本語版 中野の防災」を使って「防災授業」を実施することは可能だろうか。

来年の「2024防災フェアなかの」に向けて、「防災リーダー」を募集したい。そこで、ぜひ外国の方にも応募してもらいたい。

こうして「防災訓練」をすることに賛同したEWの教師と、地域防災課の方とのやり取りが始まりました。

■留学生をより良く知りたいと「ビジターセッション」(2023.11.30 )に参加

実施が決まってから教師とのやり取りがありましたが、さらに区役所の方々は、「より留学生のことを知りたい。出会って話をしたい」と考え、EWで行っているビジターセッションに参加してくださいました。こうして1回のイベントでの出会いではなく、継続性のあるつながりの中での特別授業にしていくことが大切であり、さらに内容も担当の方々と日本語教師とのやり取りを重ねて、練り込まれていきました。

EWでは、地域の方々、大学生団体、行政の方々、出版社の方々、風の会の方々等々、それぞれのクラスで、活動Can doに合わせて、多様な形でビジターセッションを行っています。中野区では昨年「多文化共生基本方針」が策定され、いろいろな「つながり」が生まれ、深まってきています。この流れを、みんなの努力によって、よりしっかりした流れにしたいものです。

※風の会とは、20年続いているEW内で活動をしてくださっているボランティア団体です。毎週火曜日に、「日本語サロン」を開いてくださっています。

■文化財防火デーにも参加した留学生(2024.1.26 )

「防災訓練」実施日5日前のことでしたが、「第70回文化財防火デー」のお知らせをいただき、そこにも今回「学内防災訓練」に参加したクラスではない留学生たちが参加しました。実施場所は、学校から歩いて数分のところにある宝仙寺です。内容は以下のとおりです。

消防演習内容

【演習実施時間】時間:10:00~11:00

【参加部隊】

 ・中野消防署消防隊  ・中野消防団  ・宝仙寺自衛消防隊 ・災害時支援ボランティア  ・本三宮前町会

【演習内容】

    消防隊・消防団等が合同で消防演習を実施。

■防災体験

●初期消火訓練体験

●東京消防庁キャラクター「キュータくん」来場 など

ここでも、学生さん達は、大勢の担当者の方や地域の方々と一緒になって、防災体験を楽しんでいました。なお、「文化財防火デー」については、中野消防署のサイトに次のような説明があります。

文化財防火デーは、1955年に現在の文化庁と消防庁が1月26日に制定した全国的な文化財防火運動です。文化財を震災や火災などの災害から保護し、国民への文化財保護の意識の向上を目的に行われています。

文化財防火デーの始まりは、1949年1月26日に世界最古の木造建築としても貴重な奈良県の法隆寺金堂が炎上、7~8世紀に描かれた壁画が消失しました。同年の1949年2月に愛媛県の松山城。6月には北海道の松前城の一部が火災の被害にあっています。

翌年の1950年に文化財保護法が制定。1954年に法隆寺の修復完了と文化財を火災から守ろうという文化財保護への考えが強くなり、1月26日が文化財防火デーに定められました。

2019年には世界文化遺産に登録されている沖縄県の首里城、フランスのノートルダム大聖堂が大きな火災による被害にあわれています。後世に残していく貴重な文化財を守るため火災予防が推進されています。

■「防災訓練」実施までの行政と教師との対話

では、「防災訓練」に向けての準備段階に、話を戻しましょう。EWの教師としては、「やさしい日本語版 中野の防災」を見ながら一方的に説明を聞くのではなく、留学生とやり取りをしながら進めてほしいと思い、担当の方々にリクエストしました。

すると、すぐ「中野の防災」を○×クイズ形式にしたものやクロスロードを組み入れたバージョンが送られてきました。留学生が、話し合いを通して防災を自分事として考える形にしてくださったのです。また、当日はグループを作り、それぞれのグループにお一人ずつ担当者の方が入って、留学生の話し合いに交わってくださることになりました。

こうして最終的に送られてきたパワポは、とてもわかりやすく、しかも内容が充実したものになっていました。ここまでにどんなにか時間がかかったことと思いますが、きっとビジターセッションで出会った学生さん達の顔を思い浮かべながら、留学生に合わせたバージョンへと変えていってくださったのでしょう。

今回のことを通して、さまざまな協働作業は、忌憚ない話し合いの積み重ねがいかに重要であるかが再認識されました。

■「防災訓練」の実施 &「外国人の防災リーダー」お誘い

当日は、「区役所/警察署/消防署」の方が10人も来てくださり、とても贅沢な「防災訓練」となりました。

最後に「外国人防災リーダー募集」のチラシを配布し、学生への呼びかけが始まりました。こうして留学生が地域社会の「防災リーダー」となって活躍することは、とても有意義なことだと思います。

「誰一人残さない防災」をめざし、外国の方が日本に来て防災を学び、それをみんなに伝えていくことの大切さ。外国人は<支援される側の人>ではなく、<ともに地域社会をつくっていく仲間>という視点に立っての「外国人防災リーダー」制度は、素晴らしいシステムだと思います。

■<『できる日本語中級』第5課「緊急事態」>を生かす

『できる日本語中級』の第5課は「緊急事態」です。この課の行動目標、そしてそれぞれのタスクの活動Can doを記してみます。

5課の行動目標 :予期しないことが起きたとき、状況を理解して適切な行動をとることができる。また、    緊急の事態が起こって経験したことについて話すことができる。

◆タスク1<耳でキャッチ>

  地震や台風などの速報を聞いたとき、必要な情報を得ることができる。

◆タスク2<こんなときどうする?>

  約束の時間に間に合わないとき、状況を説明して指示を受けることができる。

◆タスク3<こんなときどうする?>

  けがをしたときの状況と今の状況を説明することができる。

◆タスク4<見つけた!>

  避難の際の注意事項を読んで情報を得ることができる。

◆タスク5<伝えてみよう>

  緊急の事態が起こって経験したことを周りの人と共有することができる。

さらに、課の最後に実施する【できる!】を記しておくこととします。

第5課【できる!】

いざというとき困らないように、今から準備しておきましょう。

例)自分が住んでいる所や学校、職場などの近くで地震が起きたときどうしたらいいか調べておきましょう。

例)急に体の具合が悪くなった場合、どうしたらいいか調べておきましょう。

例)地域の避難訓練に参加しましょう。

例)防災館や防災センターに行ってみましょう。

                   🎵   🎵   🎵

防災関連の連携・協働についてお伝えしましたが、今回関わってくださった方々は、毎年9月に実施しているスピーチコンテストに参加してくださったり、毎年12月に実施している「校内俳句コンテスト」には大勢の方が選句をしてくださったりしています。こうした「一つのイベント」をして終わりではなく、さまざまな形で継続していくこと、さらに発展させていくことがとても大切だと、改めて思いました。

最後に、参加したA4クラスの学生さんが書いた「防災訓練振り返りシート」をいくつかご紹介したいと思います。このクラスは、ちょうど第5課「緊急事態」が終わり、【できる!】の活動として、前日の30日に池袋防災館に行って、さまざまなことを体験してきました。それだけに、とても実感のこもった教室での防災訓練になりました。

<「ネイ シウさん」の続きの文章です>

TOP